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日本オープンゴルフ選手権競技 2012

中嶋常幸は「俺のひとつの取り柄といえば」

ツアー通算48勝の選手にとってさえ、夢のような時間は終わってしまった。本土復帰40周年を迎えた沖縄で、AONが7年ぶりの直接対決。その中で、ただひとり予選を突破した。

中嶋がその一番の要因にあげたのも「AON」。開催コースの那覇ゴルフ倶楽部は狭いフェアウェイに深いラフ。シビアなピン位置。そして沖縄の強い風。

大会4勝を誇る57歳でさえ手こずる難条件も「青木さんとジャンボさんと3人で回れることが、楽しみだった。いい意味で集中力も出た」という。

70歳の青木。ジャンボは65歳。
「正直言うと、2人には尊敬の思いしかない。年を取り、どこかしら痛いところがあるし、力もなくなっているはずなんだ。でもその中でもジャンボは6番で俺よりも前に飛ばした。健康で若い石川遼のような選手が打つわけじゃない。本当に偉いと思う。そういう思いがこのタフなコースで、俺の気持ちをコントロールしてくれたと思う」と中嶋は言う。

初日は首位と1打差の6位タイにつけた中嶋に対して、どこかいたわるように接するこの日の2人の気遣いもありがたかった。
「お前の邪魔はしないよ、と。そういうオーラが凄く出ていて。いいショットにはナイスショットとか。凄く褒めてくれた」と、嬉しそうに微笑んだ。

4番ではティショットがバンカーのあごにくっついた。残り130ヤードの第2打は8番アイアンで、右足だけバンカーにつっこむ不自然な姿勢でグリーンを狙った。
ピンに直撃して、わずか10センチのOKバーディ。

「うまいっ!」と、ジャンボの感心しきったようなうなり声も、中嶋には誇らしい。
いよいよ最終ホールの9番は、1.5メートルのバーディで締めた。
群馬県出身。上州の空っ風の中で育った。「それと、風に強い選手は沖縄と・・・。それくらいじゃない?」と、胸を張った。

弟で、JGTOのツアーディレクターをつとめる和也に、メールを送ったのは大会前日。
「このコースで俺は80を切る自信がない。4日間、アンダーパーで回る選手がいたら俺はそいつを尊敬する」。
即座に返信が来た。
「いいや、30歳の兄貴なら回ってる」。

弟の励ましは「胸にジーンと来た」と、それも力になっている。
確かに「俺が30歳なら、なんとかアンダーパーで回ってやるって思ってやるだろう。でも、もうすぐ58歳になるんだから。それなりで回って来いってことなんだよね」。

青木やジャンボと同じように、中嶋にだって失ったものも多いが、そのかわりに培ってきたものもある。
週末は「風よ吹け!」と、空に向かって呪文を唱えた。
「俺のひとつの取り柄は何だと言えば、忍耐強さ。それが俺のポリシーみたいなもの。タフな条件も、俺は他の選手よりもありがたい」。
経験と知恵を武器に、Nがただひとり週末の沖縄で気を吐く。
「今回はコースに負けたよ」とは青木。「俺もジャンボも雁首揃って負けた」と、コースを去った。
ジャンボは「今の俺には人を心配する余裕はないけど、トミーも頑張るんじゃないか」と、精一杯のエールを送った。週末は、中嶋が1人で2人分の闘志と気概を背負ってコースに立つ。

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